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「やっかいな問題」の解き方としてのネットワーク:災害復興の鍵を握る「ハブ」は何をしているのか

「やっかいな問題」の解き方としてのネットワーク:災害復興の鍵を握る「ハブ」は何をしているのか

災害、環境破壊、貧困など現代社会には解決が難しい複雑な問題があふれている。
私たちの社会は、こうした「やっかいな問題」にアプローチするために、人と人とが紡ぎ出す社会ネットワークを活用している。
本稿では、東日本大震災へのサードセクターの対応の事例から、「問題の解き方としてのネットワーク」を可視化し、そのメカニズムの特性や扱い方を理解する。

※本稿は、SSIR Japan 編『スタンフォード・ソーシャルイノベーション・レビュー 日本版 04 コレクティブ・インパクトの新潮流と社会実装』より転載したものです。

菅野 拓 Taku Sugano

世の中にはさまざまな問題があふれている。どの経路で行けば目的地に早く着くのかといったかなりシンプルな問題から、世界の貧困をなくすといった複雑な問題まであふれかえっている。しかし、私たちの社会が見出した問題の解き方や、解決策の生み出し方の一般的なパターンはそう多くない。

私たちの社会は主に2つのメカニズムを通して財・サービスを供給することで問題を解いている。メカニズムの1つは「階層組織(hierarchy)」で、もう1つは「市場(market)」である1

階層組織とは、行政機関か民間組織かを問わず、ほとんどの組織が採用する一般的なメカニズムである。階層組織というパターンは、近代社会における特徴的な組織形態である「官僚制」として社会学者マックス・ウェーバーによって見出された2。階層組織においては、合理的なルールや秩序に従って組織を複数の部門に分割し、部門間の協業によって組織の目標を効率的に達成しようとする。営利企業や非営利組織、行政機関など、階層組織というメカニズムを用いて問題を解いたり、解決策を生み出したりしている組織は多くある。

市場は、多くの消費者と生産者が個々に価格変動に対応し、それぞれの効用と利潤を最大化するように機能する。多くの組織や個人が生産者や消費者として市場に参加している。消費者から選ばれる解決策を生み出すと利潤がもたらされるため、生産者は多くの場合、階層組織を採用してよりよい解決策を生み出そうとする。

階層組織は輪郭が明確で、ゴールや目標が見えやすい問題には有効な方法だ。たとえば大きな海峡に橋をかけるといったかなり複雑な問題であっても、計画を立て分業しながら効率的に解いていくことができる。しかし、事前に計画が立てられない問題を解くことは不得意だ。「縦割りの弊害(sectionalism)」として、有益な知識を持つ他の組織や部門、個人が問題に関わることを妨げることもあるだろう。

生産者が問題を解くことで比較的短期間に利潤が見込める場合、市場は効果的なメカニズムだ。しかし、たとえば地球規模の環境問題のように、問題に関わる関係者が多すぎると調整の費用が高くつくため市場はうまく機能しないか、たとえば排出権取引のように機能するまでに膨大な時間がかかる。

階層組織と市場ではうまく解けない「やっかいな問題」

階層組織や市場で簡単に解くことができない問題の多くは「やっかいな問題(wicked problems)」と呼ばれるものである。「やっかいな問題」とは、明確に定式化できない、解決策をすぐにテストできない、取り得る解決策を計画に組み込むことが困難といったような、あいまいで、一つひとつが特有で、そう簡単には解けない複雑な問題のことだ3。たとえば、環境破壊、貧困、いじめなど、現代社会には解決が難しい「やっかいな問題」があふれている。

本論で扱う大規模災害も「やっかいな問題」の典型だ。2011年に起こった東日本大震災を例に取れば、予測もつかないかたちで被害が広がった原子力事故や、さまざまな制度に拘束されながら必ずしもうまく対応できずに災害関連死を引き起こしてしまうような被災者の状況は、地震や津波という自然現象のみが引き起こした事態ではない。一度立てた計画へ依存しすぎることや、制度が硬直化して杓子定規に用いられることなど、日本社会が予測できない事態に対処する柔軟性を欠いたことによって厳しさを増幅させた。社会はこうした「やっかいな問題」にどのように対応したのか。以下では東日本大震災の災害対応を例にそれを考えてみたい。

サードセクターの活動がうまくいっている地域は何が違うのか

さまざまな「やっかいな問題」に対応するために、私たちは人のつながりとしての社会ネットワークを利用する4・5。そのメカニズムは「問題の解き方としてのネットワーク」と言い得るものだ。

本稿では「問題の解き方としてのネットワーク」をひも解いていくが、結論を先取りしておきたい。可視化した社会ネットワークを分析すると、ハブとなっている人がさまざまな知識や資源を社会ネットワークから動員し、解決策という力に変えていることがわかった。

ハブとは、一般にコーディネーターなどと呼ばれる、さまざまな人から信頼され、相談を受ける人たちである。このような人物が、災害復興のような「やっかいな問題」を解決するなかで重要な役割を果たしていることが浮き彫りになったと同時に、彼らの所属や肩書はその役割と直結していないことも明らかになった。

「やっかいな問題」はこれからも増え続けると思われるが、こうした人材の働きを理解し、その仕事を効果的に支援することに、私たちの社会は真剣に取り組まねばならない。

まずは2011年の東日本大震災の対応を事例に社会ネットワークを可視化し、「やっかいな問題」に対応するメカニズムを探ってみたい。

日本社会ではNPOなどのサードセクター(アメリカではノンプロフィットセクター、イギリスではボランタリーセクター、大陸ヨーロッパではサードセクターと呼ばれている)が拡大・発展する契機は大規模災害であった。

日本が近代化していく過程で、現在であればサードセクターと呼び得る活動主体は法律上想定されなかった。1896年に制定された民法では、営利法人制度が届出主義であったのに対し、非営利法人制度はなく、「公益国家独占主義」の下で政府の許認可が必要な公益法人制度が設定された6

1923年に起こった関東大震災において市民による自発的なセツルメント(支援者が住み込みで行う支援活動)が見られたが、軍国主義化していくなかで弾圧の対象となっていった。不幸なことに、第二次世界大戦敗北後も許認可不要の非営利法人制度はつくられず、その必要性に社会が目を向けるきっかけになったのが、「ボランティア元年」と呼ばれることになる1995年に起こった阪神・淡路大震災であった。その影響のもと1998年に特定非営利活動促進法(NPO法)が成立し、また、2006年に実施された公益法人制度改革によって、上述した民法の規定が110年ぶりに見直された。先進国の中では相当に遅れたものの、サードセクターの法的位置づけが整うことで、ようやく自由に非営利法人をつくることができるようになった。

その後、サードセクターの組織は爆発的に増加し、東日本大震災が起こった2011年時点では、少なくとも5万法人以上設立されていた。

このような経緯から、最近は日本社会においてもサードセクターがさまざまな問題に対応するようになってきた。特に、「やっかいな問題」に対しては組織間でネットワークを結び集合的に対応することが多い。

2011年に起こった東日本大震災においても同様で、ある調査でリストアップできただけでも約1400組織が、震災で生じたさまざまな社会課題に対応しており、実際にはもっと多かったと考えられる。しかし、その活動の活発さや効果は、被災地の中でも地域差が見られた。うまくいっている地域もあれば、そうでない地域もある。その差を規定する主要因は、社会ネットワークの利用可能性にあることが筆者の研究から明らかになった7

2016年6月から2017年8月にかけて、以下のようなインタビュー調査を実施することで、東日本大震災で生じた社会的課題に対応しているサードセクターの社会ネットワークを可視化して分析した。あるサードセクターのキーパーソンに、「東日本大震災でお世話になっていたり、信頼していたりする人を最大10人教えてください。行政・営利企業・サードセクターのどこに所属していてもいいし、震災前からのつながりでも、震災後のつながりでもいいし、被災地に住んでいる人でも被災地外の人でもかまいません」と聞いた。この質問で把握できた人のうち、震災後に被災地に住んだことがあり、サードセクターの組織に所属している人にもインタビューを行った。これを80人繰り返した。

この調査では、80人に最大10人ずつ、つながりを聞くので、最大800人のキーパーソンを把握できることになる。しかし、ほとんどの人が10人名前を挙げたにもかかわらず、実際に把握できたキーパーソンは459人にとどまった。複数の人から指名を受ける人がいたからだ。

この調査で把握した社会ネットワークを示したのが図1である。1つの正円は1人の人物を表し、正円の大きさは「信頼している・お世話になっている」として調査対象者から指名された数を反映している。正円は地域ごとに楕円状に配置している。正円同士をつないでいる線が「信頼している・お世話になっている」として指名された社会ネットワークだ。

このサードセクターの社会ネットワークの分析から、特徴的な性質が確認できた。指名された人数ごとのヒストグラム(分布図)を描くと、ほとんどの人は1人からしか指名されていないが、ごくたまにたくさんの人から指名される人がいる(図2)。つまり、ほんの一握りの人が多くの人から信頼され、膨大なつながりを持つ結節点である「ハブ」となってさまざまな情報をやりとりする中継点となっていたということだ8

情報が伝わりやすい社会ネットワークを生み出す「ハブ」はどんな人か

多くのつながりを持つハブがごく少数存在するネットワークは「スケールフリー・ネットワーク」と呼ばれる。スケールフリー・ネットワークは、少数のハブにつながりが集中するため、ランダムな攻撃に対し頑強で、情報伝播が早いという構造特性をネットワーク自体が持つ9。スケールフリー・ネットワークの代表はインターネットだ。この特性のおかげで、大規模なリンクを持つ検索サイト(Googleなど)がハブとなり、わずか数クリックのうちに、世界に10億以上あるウェブサイトの中から、目的にかなうウェブサイトにたどり着くことができる。また、いつくかのウェブサイトがサーバーエラーなどで利用不能になっていたとしても、インターネット全体の構造が維持される。GoogleやAmazonという膨大なリンクを持つハブの存在こそがインターネットの便利さの決め手である。同時に、仮に悪意を持ったハッキングなどで有名検索サイトが利用不可能になった際、さまざまな混乱が生じることが容易に想像できる。ハブを選択的に除去すると、情報伝播が速いという構造特性が失われてしまうのだ。

サードセクターの社会ネットワークも、インターネットとよく似た構造で、ハブが存在することから情報の伝播性が高く、効率的に知識や資源のシェアが可能である。つまり、ハブは問題に応じて、人と人とをつなぐことで、知識や資源を動員する要となっている。

問題を明確化させ、さまざまな個人や組織が持っている知識や資源をつなぎ合わせ、解決策を生み出すことを促進している人物こそ社会ネットワークのハブなのだ10

では社会ネットワークのハブは誰で何をしているのか。同じデータを使い統計的に分析すると、ハブは典型的には以下のような人物像である。

  • サードセクターの組織に対して資源を仲介したり、組織間のネットワーク形成を促進したりすることを役割とする「中間支援組織(infrastructure organization)」のスタッフである
  • 他セクターで働いた経験があったり、経済団体に加入した経験があったりと、サードセクターと他セクターとのつながりを生み出しやすい経験を持っている

さらに、ハブの存在しやすさには地域差があることもうかがえ、地方自治体の市民活動や協働への支援が規定要因の1つであることが示唆された11

上述した社会ネットワークでハブとなっている人物の1 人は、自らの動きについて以下のように語った。「全体の状況を総合的に俯瞰して、ここは声が上がってないとか、困っているはずなのに、ここはどうなっているのか」と思いながら、「いつかは当事者が表に出るべきなので、自分は表に出ない」で、「必要なことを実現してくれる人には耳打ち」して「裏の調整をする」。

また、同人物は、社会ネットワークについて以下のように語った。「人とのつながりがすごく大事だと思うので、行った先々ではそこの人たちとどうつながるのかを大事にし」、結果として「信頼形成コストがいらない人たち」が現れ、重要な情報を「その人に聞く」ことができるようになる。このような語りに表れるハブの人物像は、先頭に立って皆を引っ張っていくようなリーダー像からは、かけ離れているように感じる。

では、ハブとなっている人はいったい何をしているのか。この疑問に迫るため、上述した社会ネットワーク調査において把握したキーパーソン459人のうち、指名数が上位10人に入るハブ5人にインタビューを実施し、彼・彼女らが何をしているのかについて理解を試みた。

彼・彼女らは、「やっかいな問題」が存在する「状況をマクロに捉えてミクロな部分に陰から働きかけ」て、「自らの利害への執着のなさと他者の利害を想像し通訳」することでさまざまな調整を実施していた。

東日本大震災被災地においては、被災者の生活再建、住民自治の再構築、被災児童の教育環境の再整備など、被災者支援にまつわるさまざまな事柄が「やっかいな問題」として現れていた。彼・彼女らは、被災者支援にかかわる制度の種類や制度間の差異を理解し、制度の運用状況についての地方自治体ごとの特徴を把握したうえで、担当者に対してアドバイスをするなどしていた。このような行為を繰り返すなかで、問題が明確化し、必要な措置が理解でき、非営利組織や地方自治体、国などのステークホルダーを巻き込みながら、問題に対応する施策が形成される場合もあった。

ハブたちは、ある規範をベースに4種類の技能(下図)を組み合わせた行為を行っていると私は考えている。ある規範とは、自らの直接的な利害関心に応じて振る舞うことを抑制し、複数の人物や組織間で集合的に設定される目標に応じて振る舞うことを是とする「私益禁止の規範」である。

社会ネットワークのハブは、私益禁止の規範をベースに4種類の技能を組み合わせた行為を日常的に行っている。そのなかで、自らが起業家のように振る舞うというよりは、陰から個人に向き合いながら、多様な人たちと対峙し、その結果として、多くの人たちから信頼されることで、独自の知識や資源を動員することが可能な社会ネットワークを形成しているようだ12

人を通してさまざまな知識・資源を力に変える

ハブを通して社会ネットワークを使い、東日本大震災に対応していくことは、サードセクターだけでなく国が設置した復興庁の目指したところでもあった。

発災当初から政府の災害対応の中核を担い、復興庁の事務次官を務めた岡本全勝によれば、復興庁は現地の状況や要請を踏まえ、関係府省と解決の方針を決め、指示を出したり助言をしたりし、それによって各府省や地方自治体が実際の仕事を進めるという司令塔機能としての役割があったと説明している。「被災地の復興に関することなら何でも、復興庁でひとまず引き受け」「実務を行う現地や関係府省との意見交換や事業の調整を行う」ことが「復興の司令塔」機能の主たる部分であった13

しかし、普段は政府で実施していない被災者支援に関わる事業は、関係府省や地方自治体と調整するだけでは、適時に課題を捉え、適切に対策をとることは不可能であった。そのため、復興庁は政府外のアクターとの情報交換・調整を継続的に実施してきた14

たとえば、社会ネットワークのハブが多く存在する中間支援組織と、常設の会議体として情報交換し続け、さらには社会ネットワークのハブを復興庁の職員として雇い入れることまでして、迅速な情報取得に努め、施策に反映していった15・16

ハブを通して社会ネットワークをうまく利用した災害対応は、その後の大規模災害でも先駆的に実施された。長野県の災害対策本部では、情報交換・調整を行う相手は長野県の各部局、県下の地方自治体、国といった行政セクター内にとどまらず、ボランティアの調整者や有力なサードセクターの組織にも及ぶ。情報交換や調整を行いやすくするため、社会ネットワークのハブとなりうる有力なサードセクターの組織の担当者も同じフロアにいて、組織どころかセクターを越えてすばやく調整を行う。これは東日本大震災以降のサードセクターの活躍を受けて、災害対策本部会議メンバーにサードセクターの組織を加え、ともに訓練し、顔の見える関係をつくってきたからこそできることだ17。防災を所管する内閣府もこの動きに追従し、サードセクターの中間支援組織と政府との災害時の連携・調整を制度化し、全国に普及することで、災害対応を革新していくことを目指している。

復興庁や長野県の例からもわかるように、社会ネットワークのハブとなる人物は、「やっかいな問題」を扱う際、セクターや組織を超えて形成された社会ネットワークを通じて、問題を明確化するとともに解決のための知識や資源を動員する。ハブとなっている人を通してさまざまな知識や資源を解決策という力に変えるこのメカニズムこそ「問題の解き方としてのネットワーク」だ。

「ハブ」を育成・活用するためにできること

何と呼ぶかは別として、社会ネットワークのハブとなる人物の重要性を指摘する研究は複数ある。たとえば、ライフサイエンスにおいて同様の役割を果たしていると考えられる人物の重要性が指摘されているし18、「やっかいな問題」を解決する際に協力能力構築者(collaborative capacity builders, CCBs)などと名付けられた人と人との協力関係を維持する人物の重要性が指摘されている19・20。他にも同種の役割を果たしうる人物を指す概念として対境担当者(boundary spanners)と呼ぶこともある21

一方で、上述したインタビューに答えてくれたハブたちが自称する職名は、通常の組織が採用する分業には馴染みにくいものが多い。「代表理事」や「事務局長」といった組織内の役職を表す職名を除いて、最も一般的な職名は「コーディネーター」がつくものであり、他にも「プログラムオフィサー」「参与」などと称される。ただし、ハブとなっていたある人物の「コーディネーターって何してるのか、伝わらないんだよね」という語りにも表れているように、ハブとしてネットワークの要となる人物に、私たちの社会はうまく名前をつけられていない。これは、私たちの社会が、「やっかいな問題」を扱う際に最も重要な人物の専門性や職能を認めず、また、職業として扱っていないことを意味する。

私益禁止の規範をベースに4種類の技能を組み合わせた行為を日常的に重ねながら、ハブが社会ネットワークを形成することは、そう簡単なことではなく、経験や訓練が必要である。あるハブは「最近までこういう仕事って日本語さえ話せれば誰でもできると思っていた。でもそうじゃない」と語る。なぜなら「ほとんどの人は相手の文化を理解しようとする気がない」からだと。

たとえば、ある言葉1つをとっても、セクターや組織、場合によっては地域によって用いられる意味が異なる。また、課題についての関心事も、プロセス、予算規模、継続性、アカウンタビリティなど、個人の所属によって異なる。ハブは、話している相手がどのようなセクターや組織に所属しているか、その所属の中でどのような立ち位置にいるのかなどを、肩書や話しぶりなどから敏感に読み取り、その話の文脈を即座に理解している。また、その相手が安心して話せるように、自らへの利益誘導を禁じていることを相手に合わせた適切な言葉で伝えることもある。

このようなスキルは一朝一夕で身につくものではない。しかも、私益をベースに駆動する市場で「私益禁止の規範」を持つ人間を育成することは矛盾をはらんでおり、現状、このような専門性や技能が身につくかどうかは、本人の資質や経験に多分に依存している。

言葉を変えると、私たちの社会はハブを専門的職業従事者、つまりは「プロ」として理解できていないのだ。これは、きわめて大きなインパクトをもたらし得る「問題の解き方としてのネットワーク」が機能するかどうかを、偶然に委ねているということにほかならない。

ハブを育て、その能力を活用する方法は未開拓であるが、ネットワークの要となる中間支援組織など、ハブが育ち得るフィールドを豊富に持つ組織を支援することは比較的取り組みやすい第一歩だろう。また、SDGsなど公益的な目標を掲げる部門の担当としてさまざまなセクターと調整するハブが必要なポジションを組織につくり、ステークホルダーからの評判(つまりは社会ネットワークから得られる情報)を基準に採用するなどの方法は試みる価値がある。

【画像】Bohdan Orlov on Unsplash

菅野 拓

大阪公立大学大学院文学研究科准教授。臨床の社会科学者。博士(文学)。専門は人文地理学、都市地理学、サードセクター論、防災・復興政策。近著に『つながりが生み出すイノベーション―サードセクターと創発する地域』、『災害対応ガバナンス―被災者支援の混乱を止める』(ナカニシヤ出版)。NPOなどサードセクターの活動を継続的に調査・実践している。また、近年の大規模災害を踏まえ、被災者生活再建支援手法のモデル化を行う。
最近の主な委員として復興庁「多様な担い手による復興支援ビジョン検討委員会」ワーキンググループメンバー、内閣府「被災者支援のあり方検討会」委員、厚生労働省・内閣府「医療・保健・福祉と防災の連携に関する作業グループ」参考人、熊本市「復興検討委員会」委員など。

1 オリバー・E・ウィリアムソン(2017) 『ガバナンスの機構―経済組織の学際的研究』 (石田光男・山田健介訳)ミネルヴァ書房。Williamson, O. E. (1996). The Mechanisms of Governance , Oxford University Press.

2 マックス・ウェーバー(1960) 『支配の社会学 Ⅰ―経済と社会』(世良晃志郎訳)創文社。Weber, M(1922). Wirtschaft und Gesellschaft ,Mohr.

3 Rittel, H. W. J. & Webber, M. M. (1973). “Dilemmas in a general theory of planning”, Policy Sciences ,4(2), pp.155-169.

4 Powell, W. W.(1990). Neither market nor hierarchy: Network forms of organization, Research in Organizational Behavior , 12, pp.295-336.

5 Weber, E. P., & Khademian, A. M. (2008). Wicked problems, knowledge challenges, and collaborative capacity builders in network settings, Public Administration Review, 68, pp.334–349.

6 星野英一(1998)『 民法のすすめ』岩波書店。

7 菅野拓(2020) 『つながりが生み出すイノベーション―― サードセクターと創発する地域』ナカニシヤ出版。

8 菅野拓(2020) Ibid.

9 Barabási, A. L. & Albert, R. (1999). Emergence of scaling in random networks, Science , 5439, pp.509-512.

10 菅野拓(2020) Ibid.

11 菅野拓(2020) Ibid.

12 菅野拓(2021a)「職業としてのコーディネーター 越境的協働を促すメカニズムの体現者」 『国際開発研究』30巻2号, pp.11-24。

13 岡本全勝(2016) 『東日本大震災 復興が日本を変える―行政・企業・NPOの未来のかたち』ぎょうせい。

14 これが可能だった背景に、民間出身のハブが発災当時政権内部にいたことがある。

15 菅野拓(2020) Ibid.

16 菅野拓(2021b) 『災害対応ガバナンス―被災者支援の混乱を止める』ナカニシヤ出版。

17 菅野拓(2021b) Ibid.

18 Powell, W. W., White, D. R., Koput, K. W., & Owen Smith, J. (2005). Network dynamics and field evolution: The growth of interorganizational collaboration in the l i fe sciences, American Journal of Sociology , 110(4), pp.1132-1205.

19 Weber & Khademiam(2008)Ibid.

20 Head, B . W. (2019). Forty years o f wicked problems literature: Forging closer links to policy studies, Policy and Society , 38(2), pp.180-197.

21 Van Meerkerk, I. & Edelenbos, J. (2018). Boundary Spanners in Public Management and Governance: An Interdisciplinary Assessment . Edward Elgar.

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