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助けを求められる場所をどうしたらつくり続けられるのか

助けを求められる場所をどうしたらつくり続けられるのか

里親と里子の当事者による支援を循環させる

※本稿は、SSIR Japan 編『スタンフォード・ソーシャルイノベーション・レビュー 日本版 05 コミュニティの声を聞く。』のシリーズ「コミュニティの創造と再生をめぐる『問い』」より転載したものです。

齋藤直巨|Naomi Saito

社会的養護が必要な子どもの苦しみと里親の子育ての難しさ

2008年に東京都で里親登録をし、短期の預かりも含めて6人の子どもを受け入れてきた。13年前に3歳で迎え入れた里子は私の2人の実子とともに三姉妹として育ち、現在は高校生だ。

日本には、保護者がいない、さまざまな理由で親元で育てられないなど、社会的養護が必要な子どもが約4万2000人いる。その半数以上が児童養護施設で暮らすが、親子の分離や虐待などで傷ついた心を癒やせずにいたり、家庭人としてのロールモデルを獲得できずに育つことなどから、18歳になって施設から自立した後も人との信頼関係の構築に課題を抱えることが多い。特定の大人が家庭での養育を担う里親制度は、そんな子どもたちが健やかに育ち幸せであるために大きな役割を果たすものだ。

とはいえ里親の子育てには、実子を育てるのとはまったく異なる難しさがある。2歳や3歳であっても、子どもは実の親との分離に深く傷ついており、「試し行動」といわれる問題行動を起こすこともある。私自身も里子が幼い頃に「自分は親にいらないって言われた存在だから、生きていても意味がないと思っていた」と言うのを聞いて、「生まれてきてくれて嬉しい」と何度も何度も伝えた。

深く心に傷を負った里子と信頼関係を構築し、支える方法を見つけるのは簡単ではない。実子を育てた経験だけでは十分ではないのだと思い知った。どのような対応をすべきか、里親に知識や適切な相談先がないと、里子とともに辛い思いをすることになる。

2010年、私と同時期に里親になった方が里子を虐待死させてしまう事件が起きた。当時は私も里親としての子育てにとても難しさを感じていて、虐待してしまう感覚も理解できた。その方と自分は家族構成や実子を育てた経験があるなど似通ったところも多かったが、唯一の違いは、私には悩みを聞き、助けてくれる里親仲間や先輩たちが傍にいたことだった。そのことに気づいた私は、先輩方と一緒に地域の里親サロンでの活動に力を入れ始めた。「もう誰も死んでほしくない」という思いからのスタートだった。

サロンに集まる里親たちとの対話でニーズが明確になり、里親向けの研修や講演などを行うようになると、地域を越えた里親たちのコミュニティができていった。そして、実践を通して安全な養育者(里親など)を育成する仕組みをつくり、地域の子育て支援として活用するというアイデアを、東京大学公共政策大学院主催の政策コンテスト「チャレンジ!!オープンガバナンス2016」で発表。総合グランプリを受賞したことが、一般社団法人グローハッピー設立のきっかけとなった。現在は研修や相談支援のほか、里親のオンラインサロンや当事者研究、社会的養護を経験した子どもと里親家庭の実子が意見を出し合う「こども会議」、里親たちの「おとな会議」などを開催している。また、「こども会議」や「おとな会議」で出てきた意見をもとに、社会や政府への提言なども行っている。

昨年から、これらの活動を会員制度の下で行うことにした。里親には守秘義務があり、かつ里親ならではの苦労は当事者にしか理解されづらい面がある。当事者が安全な場で率直に語り合えるように、個人情報を守ることを約束したうえで入会を受けつけている。

データの表面的な情報ではなく、ロールモデルの存在が救いになる

里親には、専門家による支援や相談窓口がさまざまに提供されている。しかし、「研究ではこうだ」「一般的にはこうだ」というアドバイスが役に立つことはほとんどない。これは里親に限らず、子育て全般に言えることではないだろうか。相談に乗ってもらえると思って話したら、良くないところを指摘されたり「正しい育児」を押し付けられたりして、余計に傷つけられたという話は珍しくない。

私たちは、専門家ではなく里親の先輩方の支援に救われてきた。それぞれの里親家庭で起きる具体的な問題や悩みの答えは、それぞれの家庭で探すしかない。そのときに力になるのは、表面的なデータではなくシック(thick:厚みのある)データである。当事者の経験に基づく深い情報や実感のこもった共感が、苦しんでいるときの支えになるのだ。

私が里親の先輩から教わったことの1つが、ファミリーサポートや保育園など既存の制度も含め、使えるサポートをとことん使うことだ。

「里親として活動している」というと、特別な能力を持った立派な人であるかのように見られがちだ。でも、先輩方は子育てを1 人で抱え込まず、頼れるものには頼り、普通の人でもできる里親の姿を見せてくれた。私にとって非常に良いロールモデルだった。

いま里親として頑張っている人たちには、「助けてもらう力」はリスクマネジメントのために必要なスキルなのだと伝えている。大変なことを自分一人で乗り越えようとするのは合理的でない。自分の感性やそれぞれの子どもに合った支援を探し、自分からそこにつながって助けを得ることができるのは、このマネジメント力あってのことだ。また、そのような親の姿は子どもにとってのロールモデルにもなり、それ自体が子どもの生きていく力を育むことにもなる。

私もそうだったが、「子どもをちゃんと育てなければならない」という感覚や、周囲からどのように受け取られているかに縛られてしまう里親は多くいる。「家族とはこうあるべき」「里子を愛情深く育てなければ」と考えるあまり、かえって子どもとの関係性がうまく築けなくなってしまうこともあるのだ。

逆に、社会規範や周囲の意見を無批判に受け入れることなく「自分たち家族にとってはこれがいい」と主体的に選択している人は、家族の関係性も良い傾向にある。これだけ不安定な世の中では、生きていくこと自体に不安でいっぱいになることだってある。それでも、みんなで美味しいものを食べ、笑って、寝て、「また明日から頑張ろう」と言えるような強さがほしい。自分で選び取った軸は、その土台になるはずだ。

「武装解除」の姿勢から支援の循環が生まれる

私たちのサロンには毎回10人前後が参加するが、初めて参加する人には「ここまで率直に話ができるなんて」と驚かれることが多い。当事者研究では、自己紹介の段階で泣き出した里親もいる。他の参加者の自己紹介を聞いて、ありのままの自分を受け止めてくれる場所だとわかり、感動したそうだ。

互いのありのままを受け入れ、安心して話せる場にするためにいちばん大事にしているのは「武装解除」だ。こちらが「いいところを見せよう」とか「文句を言われないようにしよう」と構えていると、身を守ろうとしてまとった「鎧」が相手にも伝わり、心がつながり合えない。

私はサロンの活動を始めた当初、自分自身が「鎧」を脱ぎ、リラックスして参加することを心がけた。団体のスタッフにもその効果を伝えて、みんなで実践してきた。「武装解除」は練習で身につくものなので、スタッフもだんだんとそれが上手になる。その結果、参加者は不安や愚痴を含めてざっくばらんに話し合い、「鎧」で隠していた傷を癒やす場ができてきたのではないかと思う。その様子を見て、新しく入ってきた人も「ここまで語っていいんだな」という気持ちが持てるのだ。そのようにして「武装解除」が上手なメンバーが増えていき、メンバー同士が互いに支え合うという有機的な循環が生まれている。

一方で、私たちのコミュニティにはさまざまな人がやってくる。昔ながらの家族観に苦しむ人も少なくない。だからこそ、意見の異なる人ともフラットに対話できる環境を整えることによって、だんだんと視点を変えたり、多面的に捉えられるような場づくりを心がけている。相手が選んだ道のその先が、行き止まりのときもあるかもしれない。それでも、仲間としてその人の選択や歩みを見守り、本人が納得して進んでいくことを応援することが大事だと考えている。

そうやっていろいろな価値観を受け入れつつ、グローハッピーという団体の軸をいかに保つかは難しい課題だ。声の大きい人が入ってくることで、私たちの目指すものとは相容れない考え方が優勢になるようなこともありうるからだ。そうならないように、「私たちにとって本当に大切なものはなんだろう」と投げかけ、みんなで考える。それをたゆまず続けることが、コミュニティを強くするのだと考えている。

【構成】やつづかえり

齋藤直巨

一般社団法人グローハッピー 代表理事
1975年東京都生まれ。娘2人を育てながら、短期の預かりも含めて6人の子どもを受け入れてきた。地域子育て支援アイデア「地域とつながる『子育て』&『里親制度』」で、東京大学公共政策大学院主催の地域課題解決コンテスト「チャレンジ!!オープンガバナンス2016」総合グランプリ受賞。アイデアを全国に届けるために、中野区の里親、子育て中の母親、里親家庭で育った子どもとユース、大学教授をコアメンバーとして活動を始め、2019年に「一般社団法人グローハッピー」を設立。里親制度の普及・啓発や里親子への研修、子育て支援策の提案などの活動を行っている。

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